| マイケルは、豪州ではソフトボールをプレーした経験がある程度で、野球を見たこともなかった。92年に来日し西宮市に住むことになって、テレビで初めて高校野球を見て驚いた。たかがハイスクールの野球大会なのに、テレビの3局が実況中継し、チャンネルをひねれば高校野球が放映されていた。またその年は、阪神タイガースがトム・オマリー等の活躍により2位となった年で、関西にはタイガース・フィーバーが起こっていた。日本において野球の存在がとてつもなく大きいことに彼は気がついた。
大都市圏の経済動向さえも左右しかねない、関西の人々の野球熱にマイケルの心は動かされた。行きつけの散髪屋がくれた阪神タイガースのカレンダーをながめ、「ベースボールって何だろう」、「阪神タイガースは何故人気があるのだろう」などと考えながら、テレビ中継に親しむうちに、彼は次第に野球にのめり込んでいった。丁度その頃、野茂が大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースに移籍し、まさに日本の『野球』は国際化の時代を迎えていた。
1995年、マイケルは既にトラキチに変身していた。仕事が多忙なため甲子園に通う機会は少なかったが、ビデオを録画し、どんなに帰宅が遅くなっても阪神タイガースの試合を見終えてからベッドに向かった。テレビの副音声で聞けるマーティー・キーナートの英語解説をむさぼるように聞き、彼は野球に、そして阪神タイガースに精通していった。日本語がほとんど話せないマイケルにとって、日本人の奥様が彼の大きな助けとなった。中継の日本語が理解できなかった部分については、奥様が翌朝、新聞のスポーツ欄を読んで聞かせてあげた。
インターネットの時代が到来し、1997年マイケルもパソコンを購入し、ベースボールに関する情報をウェブから取り入れるようになった。英語の情報がリアルタイムで手に入るので、インターネットは大きな助けとなったが、日本の野球、特に大好きな阪神タイガースに関する英語情報がほとんど存在しないことが、マイケルにとって不満であった。
「他人が与えてくれないのならば、自分が与えるしかない。」
ある日、突然こう決心した彼は、『英語版・阪神タイガース私設応援ホームページ』の製作に取りかかった。ビデオをチェックしては、毎試合のスコア、個人打撃成績、戦評、リーグ戦順位表などを書き上げ、ホームページに掲載した。タイガース球団の歴史や、六甲おろしの歌詞英訳、外人に理解されにくい特殊用語(猛虎、ジェット風船など)の解説ページも加えた。おかげで睡眠時間は激減したが、マイケルはシーズン中、一日も休むことなくホームページを更新し、世界中に発信し続けた。
誰がこのホームページを読んでくれるのか、あまり考えもせずに始めたことではあったが、ある日大きな変化が起こった。97年タイガースに入団したマイク・グリーンウェルの友人と称するアメリカ人からメールが届いたのである。
そのメールには、「日本に行ってプレーしているグリーンウェルがどうしているのか心配していましたが、試合結果・個人成績などを知る方法がなくて困っていました。マイケル・オーウェンさんのホームページによって情報が即入手できるので本当に助かっており、心から感謝しています。アメリカの友人達にこのサイトを紹介しました。今後も頑張ってホームページを続けて下さい。」と書いてあった。
外国人(特にアメリカ人)の口伝てで、マイケルのホームページは多くの人に知られるようになった。1999年阪神に在籍したマーク・ジョンソンやカート・ミラーとは、入団当初からメール友達となり、彼らの友人や親戚からもマイケルのホームページが頼られる存在となった。日本人の女の子からのファン・レターをマーク・ジョンソンに取り次いであげたところ、ジョンソンから丁寧な返事が届いたこともある。20年も前に大阪に住んでいたという米国人老夫婦からも「大好きだったタイガースの近況がわかって、とても嬉しい」とのメールをもらった。自分のしていることが、見知らぬ人々に大きな助けとなり、また感動を与えていることをマイケルは実感した。
彼のホームページは年間に1万5千回ほど閲覧されている。
アドレスは http://www2.gol.com/users/michaelo/
昨年からマイケルの仕事がもうひとつ増えた。それは、日本のプロ野球グッズをインターネットを通じて、英語で世界中の人々に紹介し、購入のお手伝いをすることである。
サイトの名は、そのものズバリ「野球ショップ」(Yakyu Shop)
http://www.yakyushop.com/
特に宣伝もしていないが、マニア達の口伝てで広まり、まさに世界中から様々な注文が舞い込む。サウジアラビアに住んで居る人から「日本ハム・ファイターズの帽子を送って下さい」というメールをもらったこともある。自分のウェブサイトを通じて一人でも多くの人が日本の野球を知り、好きになってくれることが彼の理想である。
こんな超トラキチのマイケル・オーウェン氏ではあるが、阪神タイガースの近年の最下位続きには大いに不満が溜まっているとのこと。もっと良い選手(特に外国人選手)の獲得に力を入れて欲しい、と彼は力説する。
好きなタイガースの選手は、和田豊である。「彼のいぶし銀のような活躍は本当に印象的だ。和田は将来、きっと優秀な監督になるだろう。」とマイケルは言う。
阪神タイガースが優勝を果たし、1985年にあったと聞いているトラキチ達の熱狂的盛り上がりを自らの眼で確かめ、その輪の中心にいたいと、彼は心から願っている。
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